熱中症はなぜ起こる?――体感温度と暑さ指数から考える予防と対応

日比谷音楽祭2026では、500mLのポカリスエット イオンウォーターを2本目の半分以上まで飲んでいたにもかかわらず、暑さ、だるさ、軽いふらつきが現れた。この体験から見えたのは、脱水と身体への蓄熱は別の問題だということである。

では、身体にはなぜ熱がたまり、気温、体感温度、暑さ指数(WBGT)、熱中症警戒アラートはそれぞれ何を示しているのか。仕組みを分けて考えると、水分補給だけでなく、服装、日射対策、休憩、冷却をどう組み合わせればよいかが見えてくる。

熱中症は、身体に入る熱と逃げる熱の不均衡で起こる

人の身体は、安静にしていても代謝によって熱を作り、歩行や運動をすれば産熱量が増える。さらに、日射、高温の空気、熱くなった地面や壁からの放射によって、環境からも熱を受ける。一方、身体は皮膚からの放射・対流・伝導と、汗の蒸発によって熱を逃がしている。

身体にたまる熱 = 環境から受ける熱 + 身体が作る熱 - 身体から逃げる熱

受熱と産熱が放熱を上回る状態が続けば、その差が身体に蓄積する。体温調節が追いつかなくなり、めまい、頭痛、吐き気、強いだるさなどから、重症時には意識障害や臓器障害まで生じる状態の総称が熱中症である。

汗は、出ただけでは身体を冷やさない

発汗で身体が冷えるのは、汗が皮膚から蒸発するときに熱を奪うからである。湿度が高い、風が弱い、衣服の中に湿った空気がこもると、汗をかいても蒸発しにくい。皮膚から流れ落ちたり、靴下や衣服に残ったりした汗は水分の喪失にはなるが、その全量が放熱に使われるわけではない。

発汗量には大きな部位差もある。私の場合、夏場に坂道を歩いて駅へ向かうと、膝と手の甲だけは滴るほど汗をかき、靴下は季節を問わず汗で湿る。一方、頭部や胴体の発汗は少なく、衣服に汗が付くことはほとんどない。帽子やリュックで熱と湿気がこもる部分では発汗するが、全体としては汗をかきにくい体質である。

手の甲、膝、足など狭い範囲の汗は、面積の大きい体幹の発汗不足を補いにくい。靴やリュックで覆われた部分では蒸発も妨げられるため、目立つ汗の量と全身の冷却効果は一致しない。この発汗の個人差は、同じ暑さ指数でも身体にたまる熱が人によって異なる理由の一つになる。

脱水が進めば皮膚血流と発汗を維持しにくくなるため、水分補給は必要である。しかし、飲水は放熱機能を支える対策であり、日射や地面から入る熱、歩行で作られる熱、すでに身体にたまった熱を直接取り除く処置ではない。

暑く感じることと、身体に熱がたまることも同じではない

「体感温度」には、本人が暑いと感じる主観的な感覚と、気象条件から計算する指標の両方が含まれている。皮膚を風や冷却材で冷やすと暑さは和らぐが、局所的な冷感と全身の深部体温低下は別の反応である。

2025年に公表された健康な成人男性14人の試験では、35℃・相対湿度50%の環境で氷を使ったネッククーラーを装着すると頭頸部の冷感は強くなった一方、直腸温、食道温、心拍数、推定発汗量に有意差はなかった。涼しく感じることと、全身の蓄熱が減ることは分けて考える必要がある。

長時間屋外にいたかではなく、どれだけ熱を受け続けたか

前年に参加したRISING SUN ROCK FESTIVAL 2025では、日比谷と似た服装で水分補給をしながら、日比谷より長く屋外で過ごしても体調の異変はなかった。同じ本人が似た対策をしても結果が違ったため、環境条件の差を比較する意味がある。

参加した8月15日の石狩観測点では、ライブ開始後の14~17時は約26℃、18時には24.4℃、19時には22.0℃まで下がっていた。一方、日比谷では正午過ぎから約29℃前後で、東京地点の黒球温度は42~45℃台だったうえ、演奏中は常に日なたにいた。RSRでは夕方以降に熱負荷が下がったのに対し、日比谷では正午過ぎの強い日射に曝露が集中した。屋外滞在時間だけでなく、受けた熱の強さと、その状態が続いた時間を見る必要がある。

暑さを表す指標は、見ているものが違う

暑さに関する数値には、空気の温度を示すもの、湿度や日射を加えるもの、標準化した人体反応まで計算するものがある。それぞれ対象が違うため、用途も異なる。

指標・制度 主に扱うもの 分かること 主な限界
気温(乾球温度) 空気の温度 基本的な暑さ 湿度、日射、放射熱、風、活動量を表さない
ヒートインデックス(Heat Index) 気温、相対湿度 日陰・弱風を前提とした暑く感じる度合い 日射、放射熱、活動量を含まない
暑さ指数(WBGT) 湿球温度、黒球温度、乾球温度 湿度、日射・放射熱、気温をまとめた環境の暑熱負荷 活動量、服装、体調、曝露時間を含まない
ユニバーサル温熱気候指数(UTCI) 気温、湿度、風、平均放射温度と人体モデル 標準化した人物の温熱ストレスを相当温度で示す 実際の個人を測定するものではない
予測熱ひずみモデル(PHS) 温熱環境、代謝量、衣服など 作業者の直腸温、水分損失、許容曝露時間を予測する 専門的な予測モデルで、個人診断ではない
熱中症警戒アラート 地域内の予測WBGT 広域的に危険な暑さが予測されることを知らせる 会場内の局所環境や個人の状態は示さない

WBGTは、気温だけでは見えない湿度と日射を含む

WBGTはWet Bulb Globe Temperature(湿球黒球温度)の略で、屋外では次の式で算出する。

WBGT = 0.7×湿球温度 + 0.2×黒球温度 + 0.1×乾球温度

湿球温度は汗が蒸発しやすい環境か、黒球温度は直射日光や地面・壁から受ける放射熱が大きいか、乾球温度は空気そのものが高温かを主に反映する。環境省が示す日常生活上の目安では、WBGT25以上28未満が「警戒」、28以上31未満が「厳重警戒」、31以上が「危険」である。

同じ公園でも、日なたと木陰、芝生と熱くなった地面、風の通る場所と人が密集した場所では熱負荷が変わる。気象観測地点のWBGTと、実際の観覧場所の環境は分けて見る必要がある。

「警戒」と「熱中症警戒アラート」は別の基準

WBGTの「警戒」という区分と、熱中症警戒アラートは同じ基準ではない。熱中症警戒アラートは、府県予報区などのいずれかの情報提供地点で、当日または翌日の日最高WBGTが33に達すると予測された場合に発表される。熱中症特別警戒アラートは、原則として都道府県内の全情報提供地点で、翌日の日最高WBGTが35に達すると予測された場合に発表される。

日比谷音楽祭当日の東京地点は13時以降にWBGT25以上の「警戒」へ入ったが、東京都に熱中症警戒アラートは出ていなかった。これは矛盾ではなく、日常生活上の区分と広域アラートの基準が違うためである。アラートが出ていないことも、WBGTが危険域未満であることも、特定個人の安全を保証しない。

暑さ指数は、本人の発汗能力までは測らない

WBGTが示すのは、湿度、日射・放射熱、気温という環境側の暑熱負荷である。実際にその人がどれだけ汗を出せるか、どの部位から出るか、その汗がどれだけ蒸発したかは測っていない。UTCIも標準化した人体モデルの反応を計算する指標であり、PHSも平均的な健康な人を対象とする予測モデルである。

そのため、環境の数値が同じでも、全身の発汗量が少ない人は蒸発によって逃がせる熱が少なく、身体に熱がたまりやすい。私の場合、手の甲、膝、足では汗が目立つ一方、面積の大きい頭部と胴体では少ない。局所の汗だけを見て「十分に発汗できている」とは判断できず、汗が目立たないことも安全の証拠にはならない。

私にとってWBGTやアラートは、個人用の安全ラインではなく、まず確認する環境の基準である。日なたでの観覧や歩行が続くときは、アラートの有無にかかわらず、症状が出る前から日陰や空調のある場所で休み、身体を外から冷やす。暑さ、だるさ、ふらつきなどが出たら、数値より症状を優先して活動を止める。このように使えば、発汗の個人差と暑さの指標が予防行動へつながる。

熱中症対策を五つの系統に分ける

熱中症対策は商品名ではなく、熱収支のどこを変えるかで分けると不足が見えやすい。

系統 変えるもの 具体例
受熱を減らす 日射、地面・壁からの放射熱、高温の空気から入る熱 日陰、日傘、帽子、遮熱、日なたを避ける経路
産熱を減らす 筋活動と代謝で作る熱 歩行速度を落とす、荷物を減らす、作業を分割する
放熱を増やす 蒸発、対流、伝導、放射で逃げる熱 空調、送風、皮膚を濡らす、氷、冷水
水分・電解質を補う 循環と発汗能力、発汗で失う水分と電解質 活動前・活動中の飲水、状況に合った電解質補給
活動と暑熱曝露を止める 受熱と産熱が続く状態 観覧・歩行・運動の中止、涼しい場所への退避

最初の三つが熱の出入りを直接変え、補水が体温調節を支える。症状が出た後は五つ目の活動中止によって受熱と産熱を止め、予防から救護へ切り替える。

望ましい服装を、条件ごとに決める

暑い日の基本は、軽く、ゆったりして、風を通し、汗を外へ逃がしやすい服である。直射日光下では、さらに淡色・高反射・遮熱性のある表面を選ぶ。日焼けを防ぐために肌を覆う場合も、黒い密着着を重ねるより、薄手で通気性の高い、ゆとりのある長袖や長ズボンを使う方が熱と湿気をこもらせにくい。

条件 望ましい服装・使い方 避けたい状態
強い日差しの下 淡色・高反射または遮熱性があり、薄手でゆったりした服。必要なら通気性の高い長袖・長ズボン 黒く密着し、通気性の低い服だけで長時間日なたにいる
高湿度・弱風 襟、袖口、裾から風が通る軽い服。重ね着を減らす 防風・防水性の高い層や密着着を重ね、湿気を閉じ込める
徒歩移動・リュック使用 荷物を軽くし、背面の通気を確保する。休憩時は日陰でリュックを下ろし、衣服を緩める 背中を密閉したまま歩き続ける
日焼け対策との両立 大きな遮熱日傘で身体を影に入れ、ゆったりした衣服と露出部の日焼け止めを組み合わせる UVカット機能だけで熱も遮れると考える

イベント会場での組み合わせとしては、大きな遮熱日傘、淡色でゆったりした通気性の高い服、つばが広く通気性のある帽子、露出部の日焼け止めが基本になる。日傘で肩や胴体まで影に入れれば、肌を密着着で覆い尽くさずに日焼けと日射熱を同時に減らせる。日傘を使えない混雑時は、日陰へ移る時間を予定に組み込み、帽子だけで長時間の日なたを補おうとしない。

運動時にTシャツや短パンの下へ着る密着型インナーには、日焼け防止、擦れ防止、製品によっては筋肉の支持という役割がある。しかし、暑熱対策としての優位性は確認されておらず、暑熱環境で上半身用コンプレッションウェアを着た試験では、通常のTシャツより深部体温や心拍数が高くなった例もある。使うなら、吸汗速乾という表示だけでなく、通気性、薄さ、色や遮熱性を確認し、直射日光は日傘や日陰で遮る。黒い密着型インナーを、それ自体が身体を冷やす道具としては扱わない。

吸汗速乾素材ができるのは、出た汗を広げて乾きやすくすることまでで、汗そのものを増やすことではない。全身の発汗が少ない人は、衣服だけに冷却を期待せず、日射を遮る、日陰や空調へ移る、皮膚を濡らして風を当てるといった外部からの冷却を早めに組み合わせる必要がある。

日傘と帽子は、UVカット率だけでなく遮熱性を見る

UVカット率やUPFは紫外線による日焼けを防ぐ性能であり、日射熱をどれだけ減らすかを直接示す数値ではない。暑さ対策では、人工太陽光を当てたときの温度上昇をどれだけ抑えるかを測るJIS L 1951の遮熱率が参考になる。太陽光の熱には可視光と近赤外線が大きく関わり、遠赤外線などの長波放射は、太陽で暖まった地面や建物から受ける熱として分けて考える。

日傘は、JIS L 1951などによる遮熱率が明示され、頭だけでなく肩や胴体まで影に入る大きさを優先する。表面は淡色・高反射または遮熱コーティングされたものを選び、色名だけでなく試験値を見る。大きさを比べた実測でも、大きな傘ほど身体の広い範囲で放射熱を減らしやすかった。実際には、混雑時の安全性、耐風性、持ち続けられる重さとの両立も必要になる。

帽子も、顔・耳・首まで影を作る広いつば、日射を反射・遮熱する表面、頭部の熱と湿気を逃がす通気性を見る。日焼け止めは衣服で覆えない部分の紫外線対策であり、日射熱を遮る道具ではない。いずれも日陰や滞在時間の管理と組み合わせる。

複数の道具を使っていても、同じ系統に偏れば別の問題が残る。日傘を差して歩けば受熱は減るが、歩行による産熱は続く。スポーツドリンクを飲みながら日なたに立ち続ければ補水はできるが、受熱は続く。首だけが涼しくても、全身の放熱が十分とは限らない。

症状が出たら、予防から身体冷却へ切り替える

暑い環境で、めまい、立ちくらみ、筋肉のつり、頭痛、吐き気、強いだるさ、ふらつきなどが現れたら、対策用品を追加しながら活動を続けるのではなく、次の対応へ切り替える。

  1. 観覧、歩行、運動、作業を止め、風通しのよい日陰か、できれば空調のある場所へ移す
  2. 上着を脱ぐ、ベルトなどを緩める、皮膚を濡らして送風するなどの冷却を始める
  3. 呼びかけへの反応、会話、自力歩行、自力飲水、嘔吐、けいれんの有無を確認する
  4. 応答がおかしい、自力で飲めない、嘔吐やけいれんがある、急速に悪化している場合は、口から飲ませず救急要請する
  5. 意識が明瞭で、自分で容器を持って飲み込める場合に、水分と電解質を補給する
  6. 一人にせず、症状の変化を継続して確認する

一般の体温計で高温が確認できるまで対応を待つ必要はない。暑い環境で応答がおかしい、自力で飲めないといった状態があれば、体温の数値にかかわらず救急要請と冷却を始める。歩ける、飲めるという一項目だけで活動へ戻らず、症状の経過を確認する。

日陰で休むことと、積極的に冷やすこと

日本救急医学会の熱中症診療ガイドライン2024は、クーラーのある部屋や日陰で休むことを受動的冷却、身体を直接冷やすことを積極的冷却として分けている。

冷却 主な方法 役割
受動的冷却 日陰や空調のある場所で休む それ以上の受熱と産熱を減らし、自然な放熱を助ける
積極的冷却 皮膚を濡らして送風する、氷のうを当てる、冷水へ浸す 身体から熱を積極的に移動させる

軽症は受動的冷却と補水で改善することがあるが、改善が乏しい場合や重症が疑われる場合は、積極的冷却と医療評価が必要になる。重症時は救急要請と冷却を同時に進める。冷却を終えてから救急車を呼ぶという順番ではない。

現場で行いやすいのは、衣服を緩め、露出した皮膚や衣服を水で濡らし、扇風機やうちわで風を当てる蒸散冷却である。氷のうや保冷材は首の付け根、脇の下、脚の付け根などへ当てられるが、重症者には局所冷却だけでなく、広い範囲を速やかに冷やす必要がある。

アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの解熱薬は、感染症などの発熱に対する薬であり、外部からの受熱と放熱不足で起きる熱中症の身体冷却にはならない。

日比谷音楽祭で行われた対応を当てはめる

日比谷音楽祭では、正午頃から徒歩移動と屋外滞在が続き、演奏を観ていた間は常に日なたにいた。体調の異変を感じた後は木陰のベンチへ移った。同伴者がスタッフを呼びに離れている間、私はそこで一人で休んでいた。同伴者が連れてきたスタッフは、自力で飲める状態の私に500mLのOS-1を渡し、テント下で扇風機に当たれるようにしたうえで、日比谷図書文化館まで付き添った。受熱と産熱を止め、送風と補水を行い、より涼しい場所へ移した対応である。

一方、私が受けた対応には、衣服を緩める、広い範囲の皮膚を濡らして送風する、氷などを当てるといった積極的冷却が含まれていなかった。横になれる場所、体温の再測定、医療者による評価、担架などの搬送設備も案内されていない。

実際に受けた対応では、受動的冷却、送風、補水、付き添いは行われたが、積極的冷却と継続評価は不足していた。現場スタッフの行動と、主催者が準備する救護場所、観察、冷却設備、医療判断、搬送手順は分けて考える必要がある。

一つの数値や一つの対策を、安全の証明にしない

気温、体感温度、WBGT、警戒アラート、本人の感覚は、それぞれ異なる範囲を見ている。どれか一つが低いことを、安全の証明にはできない。

予防では、受熱、産熱、放熱、補水、曝露の継続という五つの系統を確認する。症状が出た後は、活動中止、身体冷却、経過観察へ切り替える。応答がおかしい、自力で飲めない、嘔吐やけいれんがある場合は、救急要請と冷却を同時に進める。

前年のRSRでは、日比谷と似た服装で水分補給をしながら長時間屋外で過ごしても異変はなかったが、日比谷では正午過ぎの強い日射の下で症状が出た。熱中症対策は、道具の数や「補水した」という事実だけでは完成しない。その日の環境に合わせて、受熱、産熱、放熱、補水、曝露時間の五つを組み合わせ、症状が出たら活動を止めて冷却へ切り替える必要がある。

暑さの指標も、服装も、飲料も、安全を保証するものではなく、行動を決めるための材料である。対策をしているから続けられるのではなく、条件に応じて止めることまでを対策に含めなければならない。

主な参照資料

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